人と組織が生き生きとする人事評価制度を考える

人事評価制度の設計のアドバイザー、評価者研修の講師として自治体にかかわり続けたコンサルタントのブログ

人事評価制度の導入のみしておけばよいのか

「国が導入せよと言うのだから、とにかく人事評価制度を入れてすみやかに給与に反映しよう。他の先進団体のものを借りて、とにかくやってみよう。」。 この「やってみよう」という姿勢は大切ですが、「導入しさえすればいいんだ。」という気持ちがどこかにないでしょうか。しかしこのような気持ちで導入してしまうと、次のような問題が発生します。 

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1 何のために導入するのか、自治体としての主体性はありますか?

人事評価制度のあり方は、自治体組織の運営や職員の行動に大きな影響を与えます。だからこそ、人事評価の導入を契機に、今の組織の現状をどう変えようと考えるのか、今の職員をどう変えたいのか、といったイメージを持つことが大切です。そして、そのイメージした状態の実現に向けて、着実な前進となるように制度を設計し運用します。 

評価制度の設計を間違えると知らず知らずのうちに、組織がたいへんなダメージを受けてしまうことがあります。給与に反映する仕組みならどんな仕組みでも良いとわけにはいきません。

 2 「法令で決まっているから」だけでは職員はついて来ません

人事評価制度を運用するには、評価者にその役割を十分に果たしてもらわなければなりません。被評価者も目標設定や自己評価にかかわることが求められます。多くの人たちを動かすには、導入する目的や理念に対する共感が必要です。 

また、自分にとってどんな影響が出るのか、そもそも首長は、人事は、上司は、本気でやろうとしているのかなど、職員はさまざまなことを見て評価制度にかかわる姿勢を決めます。職員にとって「なるほど」と思える、共感できるものを提示し、それを本気でやろうとする強い意志が見えてこないと人は動いてくれません。

 3 借り物の評価制度では、設計ノウハウを蓄積できません

他の団体の事例を使うことは必ずしも悪いことではありません。しかし、他の団体のマニュアルや評価シートを見ただけでは、なぜこのような制度設計にしたのか理由まで読み取ることはできません。 

また、運用を始めれば設計ノウハウも身に付くだろうと考えている方々が多いようですが、設計のノウハウは実際の設計を経験しないと身に付きません。また、なぜこのような制度にしたのか、設計の経緯や理由を知らないと、制度上の問題点を指摘されたときに、どこをどのように変えればよいのか、そもそも変えるべきことなのかなど、判断ができません。その場しのぎの対応をしていると、職員の評価制度に対する信頼性がゆらいでしまいます。 

制度設計をコンサルティング会社に委託する場合にも、コンサルティング会社にすべて任せてしまうのではなく、自ら設計プロセスにかかわるように協働して作業を進めるようにしてください。

 

なお、コンサルティング会社によっては、評価や運用の難しいシステムを意図的に導入させ、その制度の運用がうまくいかないことを見越して、「評価者訓練が足りないからです。」、「運用においてもサポートしますよ。」などと持ちかけ、高い収益を上げている会社があります。自治体側も自分たちの制度を設計した会社だから安心ではないかと考え、継続して契約してしまいます。 

しかし、うまく評価ができない、運用も難しいといった原因は設計そのものにあることも多いのです。そのようなときには、他の専門家(人事コンサルタントや研修講師)に導入した制度に関する意見を聴くことをお勧めします。

 4 人事評価制度を導入しただけでは、能力主義人事を構築したとは言えません

能力主義人事」とは、職務遂行能力を重視して人事の諸施策を行うことです。人事の諸施策には、職員の採用、昇任昇格、人事異動、能力開発、給与の決定などがあります。これらの人事諸施策において能力を重視しますよ、ということなのです。 

したがって、評価制度を導入して給与に反映したから能力主義人事ができた、と考えるのはやや視野が狭いと思います。

能力主義人事の基本は、一人ひとりの個性を尊重し活かすという考え方にあります。であれば、評価制度のみでなく、個性をどう伸ばしどう活かすか、他の人事制度との連動を検討しなければなりません。能力を基準とした昇任昇格システムを具体的にどうするのか、育て活かすための人事異動のあり方は?、能力開発のシステムはこのままでよいのか?、というように、人事制度全体にかかわる改革を行っていくことが大切です。