自治体では「部下による上司の評価」を取り入れるべきか議論されることが多いようです。自治体では、同格の管理職であっても能力差が大きいため、部下から見た上司という視点も取り入れて評価したい、という想いがあるものと考えられます。
しかし、部下は部下であるがゆえに気をつけなければならないことがあります。次のことに十分留意する必要があるのです。
- 部下は上司の経験がなく、管理職の行動事実を評価する能力が十分とはいえない
- 特定の領域については上司の行動事実に関する十分な情報を把握できない
- 上記の理由や上司との人間関係等により、感覚的あるいは感情的な評価になる危険がある
- 部下から評価を受けるため、部下に対する上司の態度に悪影響を与える可能性がある
これらに留意しつつ「部下による評価」を実施するのであれば、まず、何のために部下による評価を行うのか、目的を明らかにしてから評価方法を検討する必要があります。
1 昇給額や勤勉手当に反映する
昇給額や勤勉手当に反映させるならば、やはり納得性の高い評価であることが重要になります。しかし、上の理由により、部下による評価は、評価の客観性、公平性に問題のあるケースも出てきますので、直接的に上司の昇給額や賞与に影響を与えることについては、慎重に検討すべきであると考えます。
ただし、部下の上司に関する評価結果を、上司の評価者が評価を決める際の参考資料として活用することは有効だと考えます。この方法であれば、上司の評価者は自分の知らない事実も含めて評価することが可能になり、しっかりと事実を確認して評価すれば、より公正な評価に近づきます。
なお、部下による上司の評価の他に「360度評価」があります。「360度評価」の考え方や評価方法はより公正な評価を考える上で参考になります。
2 管理職適性(昇任昇格を含む)の把握
「部下は上司の背中を見て育つ」という言葉があるように、上司の部門運営の進め方、部下指導の実態に関しては、直属の部下の方が状況を良く知っていると言えます。
したがって、上に記したように、上司の行動の的確性や能力の高さの評価は部下には難しいかもしれませんが、部下が観察しやすい特定の評価領域については、あらかじめ期待されている行動をしているかどうか、といった評価は十分可能だと考えられます。
ただし、部下の立場からどういった領域まで評価できるのか十分検討した上で評価の仕組みを検討する必要があります。これらの条件を満たした仕組みであれば、特に管理職適性の判断材料のひとつとして有効であると考えます。
3 管理職自身の行動改革の支援
部下からどのように見られているかを集計し、評価を受けた管理職にあえて結果を示すことで管理職自身の行動の改革を促す。いわば、行動改革の支援ツールとしての活用方法があります。この場合は、部下が気楽に参加できるよう、評価の仕組みではなく、アンケート方式がよいでしょう。
これらの他にも、人間関係の問題を発見するために実施したり、管理職の教育ニーズを発見するために部下からアンケートをとるなどが考えられます。