*本稿では、人事評価の評語区分が5段階(SABCD)、給与反映用区分(昇給区分、勤勉手当の成績率の区分)も5段階(SABCD)と想定します。
ある自治体の人事担当課長からご相談がありました。
課長 「人事評価は厳正に行い、標準の「B」を中心に「A」や「C」も一定割合の人数を分布させたい。しかし、給与反映については職員の抵抗感が強いため、反映当初は「A」と「C」の割合を低く抑えてスタートしたいと思っています。どうしたらよいでしょうか。」
回答 「人事評価は人材マネジメントの中心的役割を担っていますので、個々の人材を公正に評価することが求められます。一方、給与への反映については、能力の発揮や組織への貢献等を給与に反映することで職員の意識の転換(年功意識の転換)を図ることが主目的になりますので、その目的を堅持しつつ、組織構成員に与える影響、組織風土なども考慮してスタートしなければなりません。様々な事情を考慮してのご判断であれば、給与反映当初における「A」と「C」の割合は低めに設定しても差し支えないと考えます。ただし、課長のお考えのように人事評価結果を処遇反映に繋げるプロセスに工夫が必要です。国の給与反映の方法をそのまま活用するのではなく、これからお話しする方法も参考にしていただければと思います。」
まず、次の図をご覧ください。
一般に、業績評価と能力評価のそれぞれの全体評語が決まり結果を開示するまでのプロセスを「評価」と呼び、その評価結果を用いて昇給区分、勤勉手当等の処遇反映区分を決めるプロセスを「査定」と呼びます。
図の中ほどに「総合化」とあります。これは、業績評価と能力評価のそれぞれの評価点を一定の割合で統合化し(昇給、勤勉手当、昇任昇格、それぞれに反映する点数に変換する)、その点数を使って、昇給区分、勤勉手当の成績率の区分等を決めることを指しています。
国は、昇給区分の「総合化」のときに、直近1年間の評語の組み合わせ(ABB、AAC等)を用いていますが、同じ組み合わせの人数が多くなるため「総合化」した点数で区分した方が効率的です。また、業績評価と能力評価の統合割合について、例えば、次のような多様な設定も可能です。
そして、昇給、勤勉手当などの処遇反映用の評語(仮にSABCDの5区分とします)に変換するのですが、このとき、評価時と異なる区分方法を用いて差し支えありません。区分方法も様々あります。次の図も参考にしてください。例えば、評価時は「相対区分」でSABCDのいずれかに決定し、処遇反映時は「折衷区分」で決めるなどです。
先の人事担当課長のご相談のように、給与反映時の「B」以外の割合を低く抑えたいというお考えであれば、どの程度まで抑えるべきか十分検討した上で、図の「分布基準」の数値を変えることになります。
ただし、給与反映時においても、「A」と「C」には一定の割合は分布させるべきであると考えます。ほぼ全員を「B」にする運用は、評価結果を活用していないとみなされ、評価者も「全員をBにするなら評価を公正に行う意味はない」と考えるようになりかねません。
<追記>
先般、人事担当者向けセミナーにおいて、本稿の参考になるご質問がありました。私の回答を掲載いたします。
■ご質問の対象
「人事評価時のC区分も(A区分と同様に)全体の20%前後を占める程度は必要です。Cの分布を抑制しすぎてしまうと、Cの人数はごくわずかとなり、Cとなった職員は“問題のある職員”と見なされたと受け止め、精神的なショックは大きなものとなります。Cは、まだまだ物足りない成長途上の職員であり、本来ならば15~20%は占めていると考えられます。」
■回答文
ご質問ありがとうございます。私の「C区分についても全体の20%前後を占める程度は必要」との発言について疑問を持たれているご様子と拝察いたします。
人事評価において、SABCDの5段階区分を前提とした場合、「標準」あるいは「良好」を示す「B」の割合が最も多く、次いで「A」と「C」がほぼ同じ割合となり、「S」と「D」は極めて少なくします。こうする理由は、人の能力は正規分布するからです。また、「2:6:2の原則」においても、組織構成員は、「上位2割+中位6割+下位2割」という構成比率になるとされています。
ご質問では「20%前後を占める程度まで人数を割り当ててしまうと、特に問題のない職員までC評価を受ける」とのお考えですが、「C」評価は決して「問題のある職員」ではありません。当該職としてはまだまだであり、まだ合格点までは与えることができない職員であり、主に成長途上の職員が該当します。
講座で説明したとおり、例えば新たな職に昇格して、初年度から当該職のほぼ期待レベル(良好)に達する職員はかなり優秀な職員であり、「C」に該当する職員は多くなります。民間企業のほとんどは、「A」区分と同様に「C」区分についても15%~25%となるよう評価を決めています。
国家公務員の評価傾向はご存知のことと思います。ほとんどの職員が「A」又は「B」であり、「C」区分は1%にも満たないという、正規分布を無視した異常な状態になっています。この主な原因は、昇給反映の仕組みにあります。直近1年間の3つの評価のうち、一度でも評価「C」を与えてしまうと、昇給区分は「D」以下(国は昇給区分はABCDEの5段階)になってしまうからです。
「C」を避けるのは、職に求めるレベルの考えが甘いということもあるかもしれませんが、実際にはこの処遇への影響があるため、評価者は意図的に低い評価を避けているものと考えられます。
「B」を標準とするとき、評価結果の「S」や「D」は稀であっても、「A」や「C」については広く分散するのは当然である(標準より上位の者もいれば下位の者も多数存在する)と考えています。ただし、処遇反映は異なります。評価結果は「C」だからといって、昇給や勤勉手当も「C」(SABCDの場合)にするといった直結した考え方はとりません。仮に業績評価が低くても能力評価が高く評価されれば、処遇上の「A」も可能性もある、といった制度が望ましいと考えます。
そこで、講義でお話ししたように、業績評価の全体評価点と、能力評価の全体評価点を一定の割合で総合化し、その評価点を使って、当該団体の考え方で、あらためて昇給区分や勤勉手当の成績率区分を決めればよいと考えています。自治体職員の中でも管理監督職の方々は実績・能力主義の考え方に抵抗感があるようです。であれば、当面、処遇反映は「A」や「C」の構成割合を少なくしてスタートを切る方法もあろうかと思います。
人事評価は公正に行い、人数分布も「S」から「D」まで想定するが、処遇反映においては当初、「B」以外は抑制してスタートするという考え方です。
人事評価結果は標準の「B」であるのが当たり前、という考え方は捨ててほしいと思います。成果を挙げることもできればできないこともある。慣れない仕事をすれば十分な知識・ノウハウがなく「まだまだ」と評価されることもある、「A」になったり「C」になったり、という考え方の方が自然です。
お答えになっていればよいのですが。
(補足)労務行政研究所の2010年度の調査によれば、5段階評価を採用する民間企業の平均で、S:6%、A:18%、B:55%、C:16%、D:5%と、「B」中心に左右対称分布となっています。また国においては最下位のD区分(人事評価結果)は、勤務成績不良の証左となるものであり、自治体においても分限処分を想定した人数分布も検討しておく必要があろうかと思います。